ディレクターの、ともおです。
この度、あかね書房さんから六冊の児童書の復刻が行われます。これが、とても素敵なラインナップなのです。是非、復刊ドットコムのユーザーの皆さんにもご紹介したいと思います。
まずは「日本の創作幼年童話」シリーズからの二作品。この幼年読み物のシリーズは、1960年代後半から70年代前半に発行されたものなのですが、著名なところでは神沢利子さん&堀内誠一さんの『ふらいぱんじいさん』や、個人的にとても思い入れのある山中恒さんの『このつぎなあに』などが入っていたシリーズです。今回の復刊では、現代でもトップの人気を誇る詩人、谷川俊太郎さんの文章と、イラストレーター和田誠さんの遊び心にあふれたセンスが光る『しのは きょろきょろ』。そして、このところ復刊が続いている渡辺茂男さんの文章と、渋沢龍彦氏との書簡集の刊行などでも注目を集めている(というか『ぐるんぱのようちえん』のという方が良いのか)堀内誠一さんの絵による『しゅっぱつしんこう』が刊行されます。そう、のりもの、と言えば、じぷた、の渡辺茂男さんですね。二作品ともドキドキするような傑作です。
『しのはきょろきょろ』
谷川俊太郎 作 和田誠 絵
しのは きょろきょろしたよ。
しのの むねはどきどきしている。
しのの あしはかけだしそう。
だって、5歳の女の子、しのは、たったひとりでデパートにいるんだから。でも、迷い子になったわけじゃないんだ。7階の美容院でお母さんが髪をセットしてもらっている間だけ、ほんのちょっとの冒険を楽しんでいるのです。しのの視線で描かれる大きなデパートの中は不思議に満ちていて、あたりまえのエレベーターにとまどったり、あたりまえじゃないファンタジーな展開にも動じなかったりするのです。子どもの頃のデパートの、あの見るものすべてがめずらしくて、なんでも大きく見えた世界の広がりと、ワクワクする気持ちが、いっぱいつまった楽しい作品です。
『しゅっぱつしんこう』
渡辺茂男 作 堀内誠一 絵
なにがいったい、出発進行するのかと言えば、電車でも、バスでもなくって、いや、電車でも、バスでもある「としょかん」なのです。ある町で、使われなくなったのりものを図書館にしようという試みが行われました。これが、好評だったために、どんどんといろんな町に広がっていって、ぐんぐんスケールアップしてしまうのです。やがて、国家レベルの巨大なプロジェクトにまで発展して、世界をも巻き込んでいく大変なことになるのですが、これは読んでのお楽しみ。「行きて帰りし」物語のパターン。くりかえしながらどんどんと広がっていく面白さ。ワクワクが止まらない展開と、なんともいえない優しさにみちあふれた大人たちの善意に、思わずなごんでしまいますよ。
続いて、1970年代後半の「あかね創作どうわ」シリーズから、川崎洋さん&飯野和好さんの『ぼうしをかぶったオニの子』と、灰谷健次郎さんと坪谷玲子さんのコンビによる『子どもになりたいパパとおとなになりたいぼく』をご紹介します。
『ぼうしをかぶったオニの子』
川崎洋 作 飯野和好 絵
オニってちょっとかなしい、というのは、民話ならぬ、現代童話ではいつも描かれる宿命ですね。怖いと言われて、人からいやがられるんだから、寂しくもなってしまうのもしかたない。「心の優しいオニの家」なんて、看板だしても無駄なのです。だから、たったひとりのオニの子は、ぼうしをかぶってオニであることを隠し、いろいろなものとふれあっていきます。文章が描き出す情景の美しさを、絵がおぎなって、大きな広がりを持った世界を見せてくれます。飯野和好さんの、あの懐かしい初期のタッチが、すごくいいんですね。淡い色調のカラーと、びっくりするような大胆な構図が川崎洋さんの詩的センスあふれる文章とあいまって、美しい情景とオニの子の心象を彩っていきます。文芸的な美しさとアート的なセンスが融合した一冊です。
『子どもになりたいパパとおとなになりたいぼく』
灰谷健次郎 作 坪内玲子 絵
こちらは、一見、スタンダードな作品に思えます。子ども視点で、粉飾も装飾もせず、素直に描きだされた無邪気な世界。でもこの作品、お父さんが、ちょっと「疲れている」のが気になります。それは「仕事」に対して?、いえ「人生」すべてになのでしょうか。お母さんとの関係も、ちょっと微妙な雰囲気もあります。子どもが大人になりたい、と夢見るのと、大人が疲れた顔をして、子どもにもどりたい、というのは深刻さが違いますね。深層は言葉にはされませんが、邪推と想像を重ねて最後のお父さんのセリフを読むと、ちょっと泣けてきます。お父さん、一体、今、どんな気持ちで働いて、家庭を支えているのかな。がんばっているお父さんと無邪気な子どもの対比が、とてもとても、深い作品です。
さて、1980年代に入りまして、今度は「あかね創作えほん」シリーズから、絵本の復刊が二冊。長谷川集平さんの、とっても可愛い作品と、神沢利子さん+田畑精一さんのこれもまたカワイイ作品です。こうやって時代をおって、作品を見ていくと、変遷を感じますね。
『7月12日』
長谷川集平 作絵
誕生日のパーティーに田中君と長谷川君の二人の男の子を招いた、ゆみ。でも、本当にてきてほしかったのは、ゆみが好きな長谷川君だけ。はりきる田中君と、おとなしくて照れ屋の長谷川君。このぐらいの年頃って、女の子のほうがマセていますね。男の子を「好き」だなんて気持ちを抱いたりしても、少年たちの関心はまだ昆虫の方にあったりして。そんな季節の、淡くドキドキした感じがいいんです。緊張したり、照れまくったり、お母さんに図星を言い当てられたり。ゆみの表情がすごくいい。むろん長谷川作品ならではの大胆な構図も健在です。あの怪作、『パイルドライバー』にも通じるような、キュートな長谷川集平作品の魅力満載です。
『たこのタコちゃん』
神沢利子 作 田畑精一 絵
神沢利子さんの作品にはいくつかの側面があるんですが、これは素直に楽しめる愉快な作品です。浜にうちあげあれたタコの子のタコちゃんが騒動をまきおこすお話。お祭りにまぎれこんだタコちゃんは、具合が悪くなったお囃子のおじさんに代わって、その足をたくみに使って笛をふき、お祭りをもりあげます。僕が個人的に怖れていたのは、タコ焼き屋とのニアミスですが、さすがにそんなダークな展開はなくほっとしました。安心して読める作品です。田畑精一さんは『おしいれのぼうけん』や、『太陽の子』の挿絵の印象がすごく強いのですが(なのでわりと漆黒の印象があるんですね)、この作品は色彩豊かでグラフィカルというか、80年代的なポップさを感じます。
すいません。ちょっと盛り上がって、長々と書いてしまいましたが、本当に良品揃いの復刊です。今回、あかね書房さんにご連絡をいただいて、あらためて手にとって見ましたが、一作、一作の精度の高さにため息をついてしまうような作品ばかりなんですね。復刻版として美しく甦ったこれらの作品、是非、ご入手いただければ幸いです。
■ あかね書房 特集
まだまだあかね書房さんには、品切れのままになっている沢山の素敵な作品があって、復刊ドットコムにも多くの得票が集まっています。今回、あかね書房のご担当者様と、お話する機会があったので、リクエストをくださっている皆さんの熱意をお伝えいたしました。新刊でも良い本をたくさん刊行されている、あかね書房さんですが、過去の名作もまた、読み返す価値のある作品ばかりです。是非、今後ともその出版活動に期待して参りましょう。僕がおまけブログで書いている、あかね書房特集も宜しければご覧ください。